眠りの科学とワタシの生活

睡眠関係のネタを、睡眠の専門医である2児のママが書いてます。

睡眠研究者の多くは、実は枕のことを知らない

実は、枕や布団などの寝具のことはあまり知りません。
わたしに限らず、睡眠の研究者のほとんどは、寝具を重視していないと思われます。

睡眠学の権威にはほぼ無視されている寝具

たとえば、睡眠医学の専門誌としては、一番影響力の大きいSLEEPという雑誌。年間200本くらいの論文が刊行されています。ここから2014年に刊行された論文を、"pillow(枕)"というキーワードで検索したら、ひっかかったのは、5件のみです(しかもどの論文も寝具が主題ではありません)。

睡眠医学の一番権威のある教科書"Principles and Practices of Sleep Medicine 5h edition"にも、寝具を主題にした章はありません。

どうやら、枕とか布団とかマットレスというものは、あまり、科学的な研究の対象にはなってこなかったようです。

それでも科学的な情報源を探すとしたら…?

日本睡眠環境学会という、ふとんなどを研究している学会はあります。日本で、寝具関係のエビデンスを探るなら、ここが良いのでしょうか。わたしは今のところ縁のない学会なので、よくわかりません。
http://www.sse-japan.com/index.php

厚生労働省のサイトには、「よく眠るために必要な寝具の条件」があります。
http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-01-003.html

寝具の研究が難しい理由を推測してみる

なんで、枕や布団の研究は難しいか。
客観的にデータを集めることが難しいからではないかと思われます。

ひとつには、気分の問題。
睡眠の良し悪しには、気分の問題が大きく働くため、
「いま自分は、値段の高い布団で寝ている!」
と思ったら、それだけで睡眠が良くなっちゃうことも十分あり得るわけですね。
どこまでが本当に布団の材質や作り方の手柄なのか、計測しにくいわけです。
ここが、最大の問題ではないかと考えます。

もうひとつは、利益相反の問題。
布団Aを作る会社の人や、布団Aを作る会社から研究費をもらっている研究者が、「布団Aで寝るとこんなに睡眠が改善しました!」っという研究結果を公表しても、それが本当に公平な結果かどうかっていうところに疑問が残りますよね。だから、大学などの研究機関には、そういう研究を積極的に手掛けない人が多いのかもしれない。
もっとも、薬の研究なんかではそういうことは日常的に行われており、研究方法やデータの扱いに当たって一定の基準を満たせば、OKということにはなっているようですが。
だから布団や枕も、薬の研究みたいに、研究方法の基準を厳しく決めれば、もっと研究が広がっていくものかもしれませんね。

あとは、文化の問題もあるかもしれません。どんな寝具でどんな風に寝るかというのは、国ごとに違うわけですから、寝具の研究をしても、国際的に通用するような業績は立てにくそうです。そこもまた、寝具の研究が敬遠されがちな理由なのかも。

布団にお金を使うのは、自分が納得できればアリ

で、寝具と睡眠に関する科学的証拠が乏しいということをつらつらと書いてきたわけですが、だからと言って、布団や枕にお金を使うことが効かないとは言い切れません。
科学的証拠はハッキリしなくても、「良い」寝具を使うことによって本当に睡眠がよくなるという可能性は否定できません。さっき書いたように、気分の問題というかプラセボ効果で睡眠が改善する可能性もありますし。
自分が「これでいい」と思える寝具なら、高くても安くても、それで良いのだと思いますよ。