眠りの科学とワタシの生活

睡眠関係のネタを、睡眠の専門医である2児のママが書いてます。

一晩たっぷり寝るだけじゃ、寝不足は解消できないよという話

夕べは、久しぶりに9時間眠れて良い気分です。もちろん、ぶっ通しにではなく、3時間半ごとに次男に起こされながらですが…。
 
では、これまでの寝不足は、昨晩、長めに寝たことで帳消しになったのでしょうか? 残念ながら、そんなことはありません。
 
睡眠負債、という言葉があります。負債というのは、簡単に言えば借金ですね。
必要な睡眠時間よりも実際に寝た時間が少ないと、睡眠不足の分、睡眠負債が増えるという発想です。で、睡眠負債が貯まれば貯まるほど、昼間の眠気が出やすくなる。
 
溜まっている睡眠負債がそんなに多くなければ、まだ、退屈な会議や授業で居眠りしちゃう、という程度で済みますが、睡眠負債が極度に溜まると、運転中に居眠りしてしまう、とか、危険作業の最中にウトウトする、とか、とんでもないことになります。
 
まあ、睡眠負債が少なすぎても、寝つきがわるくなったり夜中に目が覚めやすくなったりするので、ゼロを目指さなければならないというものでもないんですが。
ふつうに生活していると、数十時間分くらいの睡眠負債はすでに貯まっているという話もあります。ちょっとくらいなら睡眠負債があっても、生活に支障はないようです。
でも、自分と周りの人の身の安全のために、睡眠負債を貯めすぎないにこしたことはありません。
 
長く寝た日は、貯まった睡眠負債を返済できます。
つまり、休日に長く寝ることは、「寝だめ」で睡眠を前もって貯めておくわけではなく、すでに貯まっている睡眠負債を減らすことなのですね。
 
だけど、貯まっている睡眠負債が莫大な量になっている場合、多少長く寝た日が1、2日あっても、体が楽になるレベルにまでは睡眠負債が返しきれなくなってきます。
 
わたしの場合、次男が生まれてからずっと睡眠不足で来ているので、睡眠負債もかなり貯まっているものと思われます。最近、前より長めに寝られるようになってきたので、少しずつ返してきているのかもしれませんが…
 
ある研究では、被験者たちは、6夜、睡眠不足(6時間睡眠)で過ごしたあと、3夜、たっぷりと寝ました(最大10時間まで寝られた)。
平日の睡眠不足を週末に取り戻す、というよくある状況を、実験室で再現してみたわけです。
すると、自覚している眠気の強さや、眠いときに増えるホルモンの血中量、昼寝で寝付くまでにかかる時間は、もともとのレベルかそれ以上にまで回復したのですが、注意力検査の成績は、3晩たっぷり寝たあとでも、睡眠不足になる前のレベルまでには回復しなかったのだとか。(参考文献は文末)
 
自動車運転などの危険な作業でものを言うのは注意力なので、たっぷり寝て、自覚的には気分はすっかり良くなっても、注意力が元には戻っていない可能性があるというのは怖いことですね。
 
安全を考えると、長距離運転をする前には、一晩だけではなく、何日か続けてしっかりと睡眠をとった方が安全そうです。
 
参考文献:
Am J Physiol Endocrinol Metab. 2013 Oct 1;305(7):E890-6. doi: 10.1152/ajpendo.00301.2013. Epub 2013 Aug 13.
Effects of recovery sleep after one work week of mild sleep restriction on interleukin-6 and cortisol secretion and daytime sleepiness and performance.
Pejovic S, Basta M, Vgontzas AN, Kritikou I, Shaffer ML, Tsaoussoglou M, Stiffler D, Stefanakis Z, Bixler EO, Chrousos GP.