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眠りの科学とワタシの生活

睡眠関係のネタを、睡眠の専門医である2児のママが書いてます。

「眠ろう」って決意するだけで、睡眠時間を増やせるわけじゃない

前回までの話の続きです。

前々回の記事はこちら↓

ハタチの頃、だれもが自分みたいに眠いんだろうと思い込んでいた - 眠りの科学とワタシの生活

前回の記事はこちら↓

自覚がないのに寝不足だった ~行動誘発性睡眠不足症候群だったわたし - 眠りの科学とワタシの生活

眠るどころでない研修医生活

さて、学生生活も終わろうとする頃に、わたしは、ようやく、気がつきました。睡眠時間を毎日8時間以上と長くとれば、それほど眠くもなく過ごせることに。

ところが、睡眠時間を多めにとればいいんだ! とわかってまもなく、社会人生活のスタートです。
眠るどころではありません。

医師になって最初の数年間は、あちこちの科をまわって研修するようになっています。
勤務時間は、研修している病院や科によって、大幅に変わります。18時や19時ごろに退勤できる日の多い研修もあるし、ほぼ毎日、日付が変わってから帰宅するような研修もざらにあります。わたしはやったことがないけれど、研修医によっては、帰る時間を惜しんで病院に泊まり続ける人もいます。
まあ、比較的楽な研修であっても、学生の頃よりは、当然、確実に、拘束時間もストレスも増えます。

眠れなさすぎて、うつ状態にも

ただ単に勤務時間が長いというだけも、それまでマイペースで学生生活を送っていたわたしには十分につらかったのですが、さらに眠気がきつくなる要因がありました。

夜でも休日でも、病院から電話がかかってくること。
当直という名の、実質夜勤。
ほぼ寝ずに当直したあとなどで休みたいときでも発生する、急変や緊急入院。

どれもこれも、医師の数が足りないから仕方ないことです。
とはいえ、わたしにとってはきついことでした。ただでさえベースの睡眠時間が学生の頃より減って、眠くなりやすくなっている上に、夜中に働いたり、夜中に電話を受けたりすることがさらに、睡眠時間を減らし睡眠の質を悪くしたからです。

同じ状況を難なく切り抜けているように見えるタフで優秀な同僚もたくさんいる中で、眠くてモーロ―として疲れ切っていたわたしは、よく、みじめな気分におちいっていました。
高い階の病棟で勤務していたときには、「窓から外に出ればどうなるのだろう」という思いがふっと頭をよぎりました。その病棟にいた頃が、全研修生活で一番精神的に危なかった時期でした。毎日午前様だった上に、夜間休日の呼び出しや出勤も殊に多い部署でした。

慣れてはきても、やっぱり眠い

だんだん年数を重ねて、自信がついてくると、それでもなんとか適応してきました。帰れるときには仕事を早く終わらせてさっさと帰るという知恵もついて、いつもいつも超寝不足という状況でもなくなりました。
それでも、当時の仕事では、急な入院を受け入れたり、入院患者さんが急変して処置が必要になることなどが日常茶飯事だったので、どうしても仕事の時間が伸びて、ひどい睡眠不足になるということはしょっちゅうでした。

そんなわけで、居眠りはまったくやめられませんでした。
学生の頃と比べると、居眠りしちゃいけないという意識は強くなっていて、学生の頃と同じ程度の眠気ならば寝ないで耐えることもできるようになっていましたが、いかんせん、眠気の悪化具合の方がひどすぎました。
まわりの研修医もそろって睡眠不足なので、わたしばかり居眠りするのか目立つという状況でもなかったのですが、それでも、居眠りを叱られたり注意されたりしたことは、一度や二度ではありません。

身の丈にあった仕事に変えて、ようやく昼間の眠気が消える

転機になったのは、大学院に入ったことでした。ほぼ同時に、それまでやっていた仕事を離れて、いま専門としている、睡眠障害の診療を勉強するようになりました。

これが、結果的に良かったのです。

病棟や救急の仕事をしなくなった分、夜や休日に電話がかかってくることがなくなり、安心して休めるようになりました。
大学院生をしながら非常勤で外来診療をするという生活も、それなりに忙しいものではありましたが、毎日日付が変わるまで病院にいた頃と比べると、拘束される時間は大幅に減りました。

別に楽をしようと思って大学院に入ったり専門を変えたりしたわけではなかったんですが、結果としては、自分のために使える時間が増えました。そしてその分、眠れるようになりました。

最近は、講演を聞いていても、よほど退屈なものでなければずっと起きていられます。昼過ぎにパソコンをずっと打っているときに、耐え切れない眠気に襲われて寝てしまうということも、基本的にありません。

だけど、何かのはずみで6時間台しか寝られない日が続くと、またたちまち強い眠気が戻ってきます。
だから、自分にはもう、若いときのような働き方はできないと、諦めています。医師となったからには、救急でも重症でも適切に診療できるような人材になってみたい、それがカッコいい、と漠然と思っていたけれど、いざやってみると、わたしにとっては、それはとてもとても難しいことだったのでした。

眠ろうという意志だけでなくて、眠るための環境を整えることが大事

自分のことを振り返ると、睡眠時間を十分に取れるも取れないも、置かれた環境次第という面があるように思います。
睡眠時間がたくさん必要だと、頭ではわかっていても、仕事の時間が長ければ、眠ろうにも眠れません。

もちろん、ちゃんと眠ろうという意志も必要ですよ。大学生の頃の自分なんて、その気になればもっといくらでも長く寝られたはずなのに、「長く寝なくても大丈夫」という思い込みのせいで、夜更かしばかりしていた。

でも、ひとたび「もっと寝なくちゃ」と思ったときに、その意欲さえあれば長く寝られるようになるかって、必ずしもそんなことはないんです。
寝る時間を増やそうと思っているのにうまくいかない人は、もしかして、睡眠時間をとろうにもとれないほど、他のスケジュールがぎっちりつまってしまっているのかも。だとしたら、何か削れる活動はないか考えてみるのはもちろん、いっそ引っ越しや転職などしてダイナミックに環境を変えること考えてみると良いかもしれません。

昼間の眠気のせいでとにかく困っているという方は、眠る時間を確保するために、仕事などの環境を変えてみてはどうでしょうか。