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眠りの科学とワタシの生活

睡眠関係のネタを、睡眠の専門医である2児のママが書いてます。

36時間断眠させる実験でわかったこと ~睡眠不足にどの程度弱いかは、人によって違う

日中の眠気
睡眠不足だと、頭の働きが落ちることは、だれしも体感されていると思います。
でも実は、どのくらい睡眠不足でどのくらい頭の働きが落ちるかは、人によって違うんですよ。頭のどんな働きがとくに落ちるかということも、人それぞれです。
睡眠時間に個人差があるようにに、睡眠不足に強いか弱いかも個人差があるのですね。
 
そのことを示した研究がペンシルバニア大のVan Dongen先生らによって2004年に行われているので、ご紹介しますね。(参考文献は文末)
 

36時間起こしておく実験

その研究では、健康な被験者21人を、連続36時間の断眠状態においた上で、2時間ごとに、頭の働き、すなわち認知機能と主観的眠気を測定するさまざまな検査をおこないました。
 
断眠する前の睡眠時間の個人差が検査結果に影響をおよぼさないよう、また、もしおよぼしていたとしてもそのことをきちんと評価できるよう、実験前の被験者の睡眠時間は、長期間にわたって実験側によって管理されました。その管理手順は、ややこしい割にはブログを読まれる方にはあまり興味のない情報だと思われるので、詳しい説明は割愛します(知りたい方がいれば、あらためて説明します)。
 
その結果を簡単にまとめると、以下の通りです。
 
  • 睡眠不足のときの頭の働きの落ち具合(検査成績が悪くなる程度)は、人によって違った。
  • 睡眠不足にとくに影響される検査項目は、人によって違った。
  • どのていど睡眠不足に弱いかは、ふだん何時間寝ているかという習慣とは無関係であると考えられた。
 
ちなみに結果のまとめは、こんな図になります。

f:id:konohanakonoha:20160116065839p:plain

アルファベットは、各被験者の番号(つまり、Aさん、Bさん、…Uさんが実験に参加したということ)
●:7日間、6時間睡眠にしたあと、6時間ずっと起きていた記録
□:7日間12時間睡眠にした後、36時間ずっと起きていた記録(1回目)
◇:7日間12時間睡眠にした後、36時間ずっと起きていた記録(2回目)
左:KSSという質問紙の、被験者ごとの結果。点数が高いほど眠気が強い
中:WDTという注意力のテストの、被験者ごとの結果。点数が高いほど注意力が落ちている。 
右:PVTという注意力のテストの、被験者ごとの結果。点数が高いほど注意力が落ちている。
 
全員、同じだけの睡眠不足にさらされているわけですが、それに対する反応は、人ごとに異なっています。回復する時間をおいて断眠実験を繰り返しても、同じ人ならまた同じ程度に検査成績が落ちます。
 
また、人によって、どのテストで相対的によい成績になるかが違うのがわかりますね。
断眠時の主観的な眠気が一番少なかったTさんは、注意力のテストではWDTでもPVTでも、真ん中より悪い成績でした。
注意力テストのWDTで最も成績の良かったUさんは、主観的な眠気なら真ん中より悪いほうでした。
 
なお、もともとどのくらいそれぞれの検査が得意かどうかは、断眠時の成績に当然影響するらしいんですが、その影響を考慮しても、なお、断眠に対する反応の個人差はあるということだそうです。

感想

個人的には、この論文を読んでもっともタメになったのは、
「必要は睡眠時間は人によって違う」というのと「睡眠不足に弱い」というのは別の話なんだな、ということでした。自分自身は睡眠時間長めかつ睡眠不足に弱いこともあって、長時間睡眠の人ほど睡眠不足に弱いのだろうと思いこんでいました。
 
実際は、長時間睡眠が必要だけど、睡眠時間を削っても短期的にはシャッキリしているタイプ(ただしそういう人は、結局どこかでたくさん寝て、睡眠時間を削った分をとりかえさなければなりません)とか、短時間睡眠で大丈夫だけど、それより睡眠時間を削ったらすぐヘロヘロになってしまうタイプ(そういう人は、おそらく、ふだんは短時間睡眠だけど徹夜は好まないことでしょう)とかいるわけですね。
 
経験がふえてきて、いっぱしの専門家になったつもりでいたけれど、まだまだ勉強が必要なことばかりです。
  
参考文献:
Van Dongen HPA; Baynard MD; Maislin G; Dinges DF.
Systematic interindividual differences in neurobehavioral impairment from sleep loss: Evidence of trait-like differential vulnerability. SLEEP 2004; 27(3):423-33.