眠りの科学とワタシの生活

睡眠関係のネタを、睡眠の専門医である2児のママが書いてます。

子どものおねしょの原因がストレスなのか、気になって調べてみた

長男5歳のおねしょ騒動

久々に、子どもの話をします。

我が家の長男は、現在5歳。4歳になってほどなくして夜のオムツがとれて、それ以降の約1年間、ほぼ一度も失敗していませんでした。
しかし、今年の夏のこと。わずかひと月ほどの期間の間に、立て続けに3回も、おねしょしてしまうという出来事があったのです。
すると、親として心配するのは、何か強いストレスがわが子にふりかかっているのではないかということ。家ではそれほど変わりがないようにも見えましたが、毎日長時間過ごす保育園で、何か嫌なことがあったのかもしれない、と心配はふくらみます。
 
担任の先生に園での様子をたずね、本人にも、「嫌なことはないか」「嫌な人などはいないか」と聞きました。でも、どちらの反応も、別に特に問題はなさそう。ほっとする反面、では、原因はなんだろう? という疑問がわきます。
 

おねしょについて調べてみた

夜尿症(おねしょ)は、泌尿器科や小児科が診ることが一般的です。そのため、わたしは、実はほとんど夜尿症のことを知りません。
でも、睡眠に関連することではあるので、この際勉強がてら、文献をあたってみることにしました。
 
読んだのは英語での総説2つ(文末に記載)と、
日本夜尿症学会による「夜尿症診療のガイドライン
いつ作成されたガイドラインなのかがわからないことが難点ですが…、役員名簿や学術集会の情報更新日は今年なので、ガイドラインが作られたのも、そう何年も前のことではなかろうと思われます。
 
ふだんなじんでいない分野の資料だと、ずいぶん難しく感じるものだなー、と思い知りました。英語の文献はちんぷんかんぷんだし、日本語でも読むのが苦痛。そういうわけで、今回は内容のまとめをつくっておりません、すみません。
 

ストレスだけがおねしょの原因ではない

安心したのは、どの文献にも、夜尿症の原因や治療と関係しての「ストレス」という言葉が全然出てこなかったこと。子どものストレスが、少なくとも専門家が重要視するほどのおねしょの原因ではないとわかって、安心しました。
 
もっとも、ストレスって、どんな症状でも引き起こすものなので、下の子が生まれたとか引っ越ししたとか、明らかなストレスがありそうな場合は、それがおねしょの原因という可能性も十分にあり得ることでしょう。
でも、今回の我が家のようにに、一通りストレスについて考えても何も思い当たるところがない場合には、あまり「ストレスを見過ごしているのでは」などと親が思い詰めなくてもよいのだろうと思われました。
 

長男のおねしょは水分制限で解決

さて、うちの長男が結局どうなったかですが、夜に水分を取る量が多くなっていたのが良くなかったのだろうという結論になりました。
おねしょが多くなる少し前から、便秘対策として、夕食時の水をそれまでのコップに1杯から2杯に増やしていました。
その上、風呂上がりにわたしが水を飲むとき、長男にもついでにあげていました。夏場だったので、脱水になったらいけないと思ってのことでしたが、どうやらそれが余計だったようです。
 
風呂上りの水分は、長男が自分から欲しがるときしか飲ませない。
寝る直前には必ずトイレに行かせる、
 
その2点を徹底するようにしたら、おねしょの頻度が激減しました。いまのおねしょは、2,3か月に1回くらい。まあ、許容範囲です。もちろん、不意の事態に備えて、防水シーツは必須です。防水シーツの素材で作られたズボンも便利ですよ。
 

参考文献

1.
Pediatr Nephrol. 2011 Aug;26(8):1207-14. doi: 10.1007/s00467-011-1762-8. Epub 2011 Jan 26.Nocturnal enuresis-theoretic background and practical guidelines.Nevéus T.
 
2.
Eur J Pediatr. 2012 Jun; 171(6): 971–983.
Published online 2012 Feb 24. doi: 10.1007/s00431-012-1687-7
Practical consensus guidelines for the management of enuresis. Johan Vande Walle, Soren Rittig, Stuart Bauer, Paul Eggert, Daniela Marschall-Kehrel, and Serdar Tekgul

睡眠不足の方が風邪をひきやすいことを証明した実験の話

急に寒くなったこの時期、風邪をひきやすいですね! 

我が家では、長男が先週高熱を出し、その後、わたしや夫も似たような風邪になりました。いま気になるのは、まだその風邪にかかっている様子のない次男のこと。長男のように急に高熱を出すのではないか…? と、日々心配しています。
 
さて、睡眠時間が短い方が風邪をひきやすいというのは、経験的に知られているところではありますが、そのことを検証したおもしろい実験の論文を発見したので、ご紹介します。(参考文献は文末に記載しています)
 
この研究は、2000年から2004年にかけて、アメリカで行われました。
21歳から55歳の健康な男女153人が参加しました。アメリカでは、新聞の広告欄でよく実験の被験者を募集しているのですが、この人たちもそうやって集められたようです。被験者への謝礼は800ドル。800ドル×153で、被験者へのお礼だけでも相当なお金がかかっているな…と、つい計算してしまいますね。この資金力の豊富さ、さすがアメリカです。
 
実験は、だいたいこんな流れで進んだようです。
・まずは健康診断。そこで、健康状態に問題の見つかった人は、参加をお断りする。
・2週間連続で、前の晩の睡眠時間や、何か睡眠に問題がなかったかなどについて、電話でたずねる。
・2週間の電話面談終了から1週間ほどおいてから、実験室に来てもらい、風邪症状を引き起こすライノウイルスを鼻から投与する(!)
・その後、隔離された場所に5日間滞在して、風邪の症状が出てくるかどうか観察する。
 
風邪の症状を毎日どうやって測ったかというと、鼻水とか咳とかのどの痛みとかのいろいろな自覚症状があるかどうか、5段階で点をつけてもらうというのと、あとは、鼻水の量の測定。鼻をかんだ紙を、その都度密封した袋に捨ててもらい、その袋の重さを測ることで、鼻水の量を測ったというのです! 
ほかに、鼻水の濃さを測る検査も毎日行ったようです。
 
そうやって実験を行った結果、153人の被験者のうち135人が、風邪を発症しました。
実験開始前に聞き出していた睡眠習慣と、風邪を引いたかどうかを照らし合わせて解析したところ、平均睡眠時間が7時間未満だった人は、8時間以上の人と比べて、風邪を発症する確率は2.94 倍高かったそうです。
 
また、ベッドにいたのに眠れなかったという時間の長かった人も、ベッドにいる時間はほとんど寝ていたという人と比べて、風邪を発症した人が多かった( なんと5.5倍も)ということでした。
 
わたしの場合、子どもが0歳時の頃の冬は、ものすごく風邪をひきやすかったです。夜中に子どもの世話をすることによって、睡眠の量と質が同時に低下していたことが、風邪のひきやすさと関係していたのかもしれませんね。
 
参考文献:
Sleep habits and susceptibility to the common cold.
Cohen S, Doyle WJ, Alper CM, Janicki-Deverts D, Turner RB.
Arch Intern Med. 2009 Jan 12;169(1):62-7. doi: 10.1001/archinternmed.2008.505.

長時間労働について、睡眠障害を診る立場から思うこと

巷では長時間労働による過労死が話題になっていますが、睡眠のためという観点から、長時間労働に関して日ごろ考えていることを記しておきます。
 
それは、睡眠のためにも、長時間労働という慣行は、ぜひなくなって欲しい、ということです。
 
患者さんと話していると、ときどき、「この人、長時間労働でさえなかったら、病院に来る必要ってないんでは」と感じられる場合があるんですよね。
 
長時間労働だと、睡眠時間が削られやすいですよね。で、睡眠時間が足りなくなると、当然、眠くなります。中には、睡眠不足に特に弱くて、他の人がまだまだ耐えられる状況でも居眠りしまくるようになるタイプの人もいます。
そういう人が、上司や同僚から注意されて人間関係が悪くなったり、自分でも「自分は居眠りするなんてだめなやつだ」と自己肯定感が落ちてメンタルを病みやすくなったりします。交通事故や労働災害の危険が増えることも、言うまでもありません。
 
こういう人でも、週40時間程度の労働なら人並みに働ける場合は多いと思われます。でも、長く働かせられるばかりに、仕事がうまく回らないし心身も壊すしで、結局退職してしまう羽目になる。あるいは、居眠りしすぎるからって、クビになることもある。なんともったいないことでしょう。
 
もちろん、睡眠に限らず、その他の健康問題でも、あるいは、育児や介護などの長く働けない事情を抱えた人でも、似たようなものだと思います。
 
それぞれの人が、自分にとって最適な労働時間で、胸を張って、社会の一部として活躍できる、そんな世の中にしていきたいものです。
 

居眠りをよくする人に、「やる気がない」とは、専門医のわたしは思わない

 眠気とやる気の関係について、どう言えばいいのか、ずっともやもやしていました。
 本ブログに対していただいたコメントに対して回答したことをきっかけとして考えがまとまったので、書いておきます。
 なお、この内容は、これまでの診療の経験などから生じた個人的な見解であり、根拠となるような定量的なデータはないことをお断りしておきます。
 
 さて、眠気をコントロールできないことは、やる気の問題と捉えられがちです。
 眠気の強い人と話していると、「眠いのはやる気がないからだと言われた」という話を本当によく聞きます。
 
 たしかに、眠気とやる気は結びついています。退屈な授業は眠くなる、好きな教科や面白い話なら眠くならない、そういう体験のある人は多いことでしょう。
 眠気の強い人であっても、強い興味を持てることであれば、なんとか起きていられるということはめずらしくありません。
 
 しかし、だからといって、眠ってしまうのはやる気がない証拠、ということにはなりません。
 わたしが考えるのは、目を覚ましているために必要なやる気の量は、人によって違うのだろうということです。
 言い換えると、同じ量のやる気がある場合でも、もともと眠気のない人は起きていられるし、眠気の強い人は眠ってしまうというわけです。
 つまり、眠気の強い人が起き続けているためには、ふつうの人と比べて、何倍ものやる気が必要なのではないでしょうか。
 
 すぐ居眠りしてしまう人は、単純なやる気不足ではなくて、むしろ、眠っていない人の何倍ものやる気を出して、眠らないように頑張ろうとしている場合もあるのではないかと思います。
 
そもそも頑張りすぎて睡眠不足で眠くなっちゃう人って、少なくないですしね。部活に塾に遠距離通学のコンボとか。そういう人が、「居眠りしないように頑張ろう」というやる気だけがないわけがない。
 
それを「眠るなんてやる気がない」と𠮟りつけるのは、筋違いではないかと感じます。
 
なお、もしも本当にやる気が足りないがために眠ってしまうという場合であっても、「やる気がない」と叱ることには、百害あって一利なしだと考えています。これについては、また別の機会に。

睡眠障害で病院にかかりたいときの、病院の探し方・選び方

睡眠時無呼吸症候群疑いの人が、どうやって受診する病院を見つければ良いか、という内容のエントリを以前に書きました。
 
今回は、睡眠時無呼吸症候群以外の睡眠障害が疑われる人が、どうやって受診する病院を見つけるのか、ということについて書きます。
 

学会が提供する医療機関リストの読み方

日本睡眠学会が認定する認定医療機関は、2016年9月の時点で、全国で96機関あります。
リンク先のページが、日本睡眠学会のが提供する認定医療機関や認定医などの情報です。「認定機関」をクリックして、リストに飛べます。
 
認定医療機関のリストをよく見ると、それぞれの医療機関が、「機関A」と「機関B」のいずれかに分けられていることがわかります。
AとB、いったい何が違うのでしょうか?
 
答えは、同じWebページ上にある、学会認定のための規約
に書いてあります。
 
(以下引用)
睡眠障害の医療を行なう学会認定医療機関(A型)は、睡眠障害の全般 (睡眠障害の国際的診断分類第2版 ICSD-2 の診断カテゴリーによる)を診療の 対象とし、睡眠ポリグラフ検査(MSLT を含む)を年間(1/1~12/30)50 症例以上 および MSLT 検査を年間(1/1~12/30)5症例以上行えることを条件とする。睡眠呼吸障害の医療を行う学会認定医療機関(B型)は、睡眠時無呼吸症候群、およ び、その関連疾患を診療の対象とし、睡眠ポリグラフ検査を年間 50 症例以上行え ることを条件とする。
(引用おわり)
 
カンタンにまとめると、「機関A」では、睡眠障害全般を診ます、「機関B」は、睡眠時無呼吸症候群専門です、ということですね。
 

機関A、機関B、どちらを受診するか?

ですから、睡眠時無呼吸症候群疑いの人は、どちらを受診してもいいです。
(もっとも、典型的な睡眠時無呼吸症候群の人なら、認定医療機関以外のところで診てもらうのでも問題がない場合も多いと,個人的には思っています。詳しくは、冒頭で紹介したエントリをご覧ください。)
 
一方、「睡眠時無呼吸症候群ではなさそう、でも睡眠障害かもしれない…!」という人は、機関Aの医療機関を受診しましょう。予約制をとっている病院が多いので、事前に必ず問い合わせるようにしましょう。また、混んでいるところが多いので、初診までけっこう待つことになるかもしれません。
 

「地方に住んでいて、認定医療機関が遠すぎる!」という場合は?

ただ、住んでいる地方によっては、近くに機関Aの医療機関がないという場合もあるかと思います。
そのようなときはどうすれはいいか、という案も書いておきます。
ただしいずれの場合も、認定医療機関を受診した場合と比べて、最善の検査や治療が受けられないかもしれないというデメリットがあることはお断りしておきます。
 
1 認定医療機関でなくても、睡眠医療認定医が行っている外来を受診する。
睡眠学会認定機関のリストが載っているのと同じページから、睡眠医療認定医のリストへも飛べます。
認定がいる病院の数は、認定医療機関よりもたくさんあります。医師によっては、主に所属している病院以外で診療を行っている場合もあるので、近くにいそうな医師の名前で検索して、通いやすい病院で外来を行っていないか、調べてみてもいいかもしれません。
 
そして、上記のような医療機関すら近くにない場合は、
2 疑わしそうな病気に応じて、専門科を受診する
のが、次善の策でしょうか。
うまく読みがあたって、見識のある医師に当たれば、問題ない治療か受けられるかもしれません。
レストレスレッグス症候群疑いなら神経内科とか。
睡眠時無呼吸症候群疑いなら、耳鼻科や神経内科とか。
それ以外なら、だいたい精神科・心療内科かな。睡眠の領域の病気の多くは、精神科の領域でもあります。ただし、睡眠の分野で一番多い病気である睡眠時無呼吸症候群を、精神科では基本的に扱わないことと、睡眠障害の診療に重要な検査である終夜睡眠ポリグラフィを、ほとんどの精神科では行っていないことが問題です。
 
睡眠障害のある人はみんな睡眠の専門医が診るのが理想的だと、個人的には思いますが、なにしろ専門医の数が少ないので、なかなかそうも行きませんね…。

家族も同席した方が良いのでしょうか? ~睡眠障害で病院を受診するとき

睡眠障害の患者さんを診ているときに、ご家族も診察室にいたらいいのに、と思うことがときどきあります。
 
たとえば初診の方で、睡眠中の行動や、いびきが問題である場合です。
寝ている間に歩き回ったり食べたりしていることを、往々にして、ご本人は覚えていません。いびきも、たとえひどいものであっても、ご本人は何の自覚もしていないことは、めずらしくありません。そのような場合、ご本人の話よりもご家族からの目撃証言の方が情報量が多くなります。ご本人だけ来られた場合でも、診療はできますが、状況を目撃している人から情報提供いただける方が、適切な診断や治療をできる可能性が高まります。
 
さらに、ご家族が診察に同席されることによって、治療方針の説明を、医師からご家族に直接できるというメリットもあります。
ご家族が診察に同席されない場合、医師からご本人に行った説明を、さらにご本人からご家族に行うというのがふつうの流れであろうと思われます。しかし、そのような場合、医師とご家族の間にご本人を挟んだ伝言ゲームとなることによって、医師の意図が、正確にご家族に伝わらなくなる可能性があります。また、患者さんは、たいてい、その病気について、医師ほどの知識はないし、説明することに慣れてもいないので、ご家族に対する説明が、わかりづらくなりがちだろうと思われます。
 
無駄な誤解や行き違いを避けるためには、こちらからご家族へ直接説明できる方が安心です。
そうすることで、治療に対するご家族の理解が進めば、ご家族から治療に対するサポートを得られやすくなり、結果として治療がうまくいくようになるのではないかという期待も、こちらとしては持っています。
 
もちろん、上に書いたことに当てはまらなくても、ご家族が診察への同席を希望されて、ご本人もそれで問題ないと思っているならば、いつでもだれでも診察に同席されて構いません。
 
逆に、ご家族は診察への同席を希望されるもののご本人は1人で医師と話したいと考えている場合は、そう申し出ていただければ、ご家族の方に退席していただくように、たいていのところでは配慮してくれると思います。

睡眠時無呼吸症候群がある人で、突然死の危険はどのくらい上がるのか

夜中に息が止まって、そのまま死んでしまうということはあるのでしょうか?

 
最近、夫が睡眠時無呼吸症候群だという複数の方から、「夫の睡眠時無呼吸がひどくて、そのまま呼吸が止まってしまうのではないかと心配で、自分が眠れない」という訴えを聞きました。
 
たしかに、重症の睡眠時無呼吸症候群の場合、最長で1分や2分、呼吸が止まる人も珍しくありません。その呼吸停止を目撃する家族の人が、「このまま呼吸を再開しなくなるのではないか」と気が気でなくなるのも、無理もないことです。
 
実際のところ、睡眠時無呼吸が直接の原因となって窒息死したという事例は聞いたことがありません。
ただし、心臓が原因で、夜間の睡眠中に突然死すること自体は、たまに起きることです。そして、睡眠時無呼吸症候群は、心臓に悪影響を及ぼす病気です。そういう意味では、睡眠時無呼吸がある人の方が、ない人に比べて、就寝中の突然死は増えそうです。
 
では実際にどの程度、危険なのでしょうか?
それを考える上で、参考になるかもしれない研究を紹介します。(参考文献は文末)
 

睡眠時無呼吸症候群があると、心臓突然死のリスクはちょっと上がる

この研究では、米国のメイヨークリニックの睡眠センターを、1987年から2003年のあいだに受診して、終夜睡眠ポリグラフ検査を受けた人を対象としました。
そして、検査後の数年間で、心臓が原因の突然死が生じたかどうか、死亡証明書や病院の記録などを追跡しました。追跡した期間は、1人あたり、平均5.3年分です。
 
すると、研究で参加した10701人の中から、142件の心臓突然死が発生したことが、確認されました。(これは、そのまま死んでしまった人だけでなく、蘇生された人も含めた数値です)
全体では、1人あたり、1年間に心臓突然死に陥るリスクは0.27%という計算になります。これは、何かしら病気のある人も、検査を受けたというだけでそれ以外は特に持病のない人も含めた結果です。
 
睡眠時無呼吸症候群があれば、たしかに、心肺停止になる危険は上がります。
無呼吸低呼吸指数、すなわち1時間あたりの無呼吸と低呼吸が合計20回以上の人(ちょうど日本だと、CPAP治療を開始する基準を満たしている人たち)が心停止を起こすリスクは、無呼吸低呼吸指数が20未満の人の1.6倍でした。

研究結果をもとにして考えてみた

この研究ではそこまで言及されていませんが、わたしの意見として、無呼吸低呼吸指数が40とか60とかある重症の方では、もっとリスクは上がることでしょう。
それでも、論文に載っている他の数値も踏まえた印象として、重症の睡眠時無呼吸症候群における心肺停止のリスクが、睡眠時無呼吸のない人の10倍を超えることはあるまいと思われます。
なので、大げさに見積っても、重症の睡眠時無呼吸症候群がある人が心肺停止を起こすリスクは年3%程度かなと思います。
その場合、365で割って、1日あたりのリスクは、0.01%以下になります。
 
1日あたりのリスクが0.01%というのは、同じ日に呼吸が止まっている重症の睡眠時無呼吸症候群の患者さんが、1万人いたとして、そのうち1人が突然の心停止に陥るという意味ですね。
 
そして、今回紹介した研究では、1日のうちどの時間帯で心停止になったかどうかは問題にしていないので、睡眠中の突然死の危険は、この数字よりさらに低くなります。
また、日本人と比べると、米国人の方が心臓病の危険が高い傾向があるので、もし日本人で同様の調査をしたら、より低い数値となる可能性が高そうです。
 
ただし、この研究では、心臓突然死だけを調べているので、他の原因による死亡も含めたら、亡くなる可能性自体は当然もっと高いです。あくまで、予想外に突然亡くなる確率というところですね。

結論:(たぶん)今晩は大丈夫

数字をどうとらえるかの価値観は人それぞれですが、わたし自身は、今回計算してみた数値、つまり、いびきと無呼吸の激しい夫が、奥さんを悩ましているまさにその晩にそのまま亡くなってしまうという危険は、 それほど高くないんじゃないかと思います。
 
毎日の積み重ねによって、いつかは…という危険は、まあそれなりにあるとしても、今晩はまだそのときではない、という可能性の方がずっと高いということです。
 
それよりは、息が止まらない夫を心配して夜眠れないことによる、奥さんの健康への悪影響の方が、わたしは心配です。
 
夫が病院に行って治療を受けるよう、起きている間にしっかり説得することを心に決めて、夜はぐっすり眠られるのが一番ではないでしょうか。
 

注意

なお、今回の話は、あくまで、睡眠時無呼吸と突然の心停止の関係について述べているだけなので、睡眠時無呼吸を放置していいと言っているわけでは、決して、ありませんよ。
 
家族の人に心配されるほど長時間息が止まっている人は、重症の睡眠時無呼吸症候群である危険が高いです。
重症の睡眠時無呼吸症候群を放置することは、高血圧や不整脈、心疾患や脳卒中などさまざまな病気の危険が、明らかに増えることにつながるので、どうかしっかり治療は受けてくださいね。
 
参考文献:
J Am Coll Cardiol. 2013 Aug 13;62(7):610-6. doi: 10.1016/j.jacc.2013.04.080. Epub 2013 Jun 13.
Obstructive sleep apnea and the risk of sudden cardiac death: a longitudinal study of 10,701 adults.
Gami AS1, Olson EJ, Shen WK, Wright RS, Ballman KV, Hodge DO, Herges RM, Howard DE, Somers VK.