眠りの科学とワタシの生活

睡眠関係のネタを、睡眠の専門医である2児のママが書いてます。

眠っている間に食べている ~睡眠関連摂食障害の話

朝起きると、食べた覚えのないポテトチップの空袋が転がっている。
一人暮らしなのに、知らない間に使った痕跡が台所にあり、よくわからない料理が食卓に乗っている。
食事制限が厳しいダイエットを送っているのに、気がつくと冷蔵庫の食べ物がどんどん減り、腹回りが増えている―。
 
このような話に、身に覚えはありませんか? あったら、それは、睡眠関連摂食障害(sleep related eating disorder)かもしれません。
眠っている間に起き上がって、飲み食いしたり、料理したりという行動が特徴の病気です。
眠っている間のことなので、ふつうは本人は、そのような行動をとっていたことを覚えていません。
 
昼間の起きている間に症状がある摂食障害と、名前は似ていますが、別の病気です。ただし、摂食障害があると、睡眠関連摂食障害も発症しやすいという傾向はあるようです。
 
睡眠関連摂食障害による問題は、以下のようなものがあります。
 
ひとつは、怪我のおそれがあること。なにしろ、眠っている間に包丁を使ったり火を使ったりするわけですから、危ないのです。
ある高齢の女性は、「朝起きたら卵焼きが焼けていた」と話されました。無事に済んでいるから良いようなものですが、下手するとご本人がやけどを負ったり、家が火事になったりする危険があります。
 
もうひとつは、体重増加。自覚がない間に食べるので、起きているときのように「ほどよいところで我慢する」ことが難しいのでしょう。しかも、睡眠中の食べ物として、高カロリーなものを選ぶ人がなぜか多いようなのです。結果、体重が増え、糖尿病や高血圧などの肥満に関連した病気が悪化する人も少なくありません。
 
さらに、飲食により睡眠が分断されることで、昼間の眠気が出るという場合もあります。
 
睡眠関連摂食障害は、睡眠薬などの精神科系の薬の副作用として出ている場合が少なくありません。なので、疑わしい薬がある場合は、まずそれを減らすことが治療となります。
ただし、病状によっては、すでに飲んでいる薬をとてもじゃないけど減らせないという場合もあります。そういう場合は、ある種の抗けいれん薬を使っていただくことで、夜間の摂食行動が抑えられる可能性があります。

インフルエンザにかかるとなぜ眠い?

6か月の次男がインフルエンザにかかり、続いてわたし自身も高熱を出し、と余裕のない状況で、ブログ更新が滞ってしまっていました。さいわい、次男もわたしも、もう元気になりました。

ところで、インフルエンザなどの感染症にかかったときって、いつもより眠くなりますよね。
その辺は、実験でも実証されていて、人為的にインフルエンザウイルスに感染させた人や動物では、睡眠、とくにノンレム睡眠の量が増えことが確認されているそうです。

なぜそうなるのか、ハッキリとした理由はいまだわかっていないようですが、ウイルス感染の際に免疫細胞から分泌されるサイトカインという物質による変化ではないかと言われています。体を防御するための反応として、睡眠を増やしているということですね。

一方、睡眠不足で免疫の働きが悪くなるということも、多くの研究で報告されています。慢性的に睡眠不足にしたラットは全身に菌がまわって死ぬそうですし、予防接種をする人たちを睡眠不足にさせる群と睡眠を十分に取る群に分けると、睡眠不足にさせた群の方が、摂取直後の免疫の付き方が弱いという研究もあります。

寝不足だと風邪を引きやすいし、風邪を引いたらたっぷり寝て休むのが良い、とは、おそらくだれもがすでに経験から知っているところではあるかと思いますが、それは科学的な裏付のあることなのですね。

ほかにも炎症と日中の眠気にはけっこう深い関連があるようで、炎症をおさえるクスリを投与することで日中の眠気まで減ったという研究もあり、なかなか興味深いところです。

 

参考文献:
Principles and Practices of Sleep Medicine 5th ed.
Chapter 25: Sleep and Host Defense

長時間睡眠の人は、病気のリスクや死亡率が高い傾向はあるけれど…

数々の疫学研究で、長時間睡眠(だいたい9時間以上くらい)の習慣がある人は、色々な病気などのリスクが高いという結果が出ています。
 
なぜそうなるのでしょうか? そして、すでに長時間寝ている人は、この結果をどう考えればいいのでしょうか?
 

長時間睡眠で健康状態が悪くなる人が多い理由

この相関の理由は、はっきりとわかっていませんが、仮説はいくつか挙げられています(参考文献は文末)。
 
長時間睡眠→健康状態が悪くなる仮説
  • 長時間睡眠だと睡眠が分断されやすい。それが体に悪い
  • 長時間睡眠が免疫機能に悪影響を与える
  • 長い時間を暗い空間で過ごすことが体内時計に影響を与える?
  • 長い時間を寝床で過ごすと、運動とか、熱とか、重力とか、そういうストレスが減るのがかえって良くない?

健康状態が悪い→長時間睡眠になる仮説
  • 疲れると長時間睡眠になりやすい。
  • 何か病気にかかっていると睡眠時間が伸びる。
 

すでに長時間寝ている人は、どうしましょう?

ただ、わたしとしては、すでに9-10時間寝ていて、なおかつそのくらいの睡眠時間が必要だと自覚している人は、無理に睡眠を削らない方がいいんじゃないかと考えています。
 
長時間睡眠で悩むひとりひとりとお話していて思うのは、「長く寝なきゃいけない人が、意志の力とか外圧で睡眠時間を縮めるのは結局無理がある」ということです。
 
長く寝なきゃいけない人には相応の理由があるのです。「長時間睡眠だと健康状態が悪い人が多い」というのが疫学データ上では明らかであるからといって、「じゃあ、もっと寝ている時間を減らそう!」としても、結局破綻する可能性が高い。
まあもちろん、それでうまくいけばいいんですけどね。
 
こういうデータがあるからといって、長時間睡眠者の周囲の人が長時間睡眠を責めるネタにはなってほしくないな、と希望しています。
 
参考文献
Cappuccio FP, D’Elia L, Strazzullo P, Miller MA. Sleep Duration and All-Cause Mortality: A Systematic Review and Meta-Analysis of Prospective Studies.Sleep. 2010;33(5):585-592.

赤ちゃんが寝る前に頭をブンブン振る動き。その正体は? ~睡眠関連律動性運動

次男は生後6か月になりました。最近は、夜8時頃にベビーベッドに寝かせたら、そのまま文句を言わずに寝ついてくれる日が増えてきました。その次に目を覚ますのが、だいたい2時から4時頃。オムツを替えて授乳して、もうひと眠り。ただし、昼間にはあまり寝ません。
 
悩みというほどのことのではありませんが、最近困ったなと思うのが、休みの日だろうがこちらが寝ていようが、朝6時頃には必ず目覚めておしゃべりを始め、他の家族を起こしにかかること。もう少し寝ていてくれる方がこちらはゆっくりできるのですが、しかたありませんね…。
 
その次男は、最近寝る前に、頭を左右にリズミカルに振る動きをよく見せるようになりました。眠そうなとき、数分間、頭を横にブンブン振って過ごし、その後静かに寝つきます。
 
これは、睡眠関連律動性運動と呼ばれるものです。次男のように頭を横にゆする動きの他に、四つん這いになって体全体を動かしたり、頭や上半身を繰り返し持ち上げて枕などに打ち付けたりという動きがよく見られるそうです。うとうとしているとき、もしくは睡眠中に生じることが特徴的で、本人の記憶には残らないようです。
 
睡眠障害国際分類第2版」によると、9か月の赤ちゃんの59%は、なんらかの睡眠関連律動性運動を呈するということです。18カ月になるとその発生率は33%に、5歳では5%にまで減ります。まれに成人にも見られるそうです。
 
基本的には放っておいて問題ありません。ただ、動きによって怪我しないようには気を付けてあげましょう。
 
動きのせいでよく眠れず、昼間に元気に活動できないようだったり、動きのために怪我するおそれがあったりする場合に限って、お薬での治療の対象となります。

子どもにすんなり寝てもらうための、朝からの過ごし方

子どもに夜更かしをさせず、質の良い睡眠をとるためには、寝るための環境を親が意識的に整えることも大事です。
  

 

そのために重要なことをご紹介しますね。

 

1.寝過ごさず、一定時刻に起床

2.朝のうちに外の光を浴びる

3.日中に体を動かす

4.昼寝・夕寝はしない

5.カフェインをとらない

6.寝る前1時間は薄暗い環境で過ごす。

 

 おおまかに分ければ、1~2が朝の過ごし方、3~4は昼の過ごし方、5~7は夕方以降の過ごし方、というところでしょうか。

 

朝の過ごし方

1.寝過ごさず、一定時刻に起床

朝起きる時間がまちまちだと、夜に眠くなる時間もまちまちになります。ふだんより大幅に寝過ごしてしまうと、その夜はなかなか眠気が来にくくなってしまいます。

 

2.朝のうちに外の光を浴びる

夜に眠気をもたらすホルモンであるメラトニンは、起きた直後に強い光を浴びることで、夜に分泌されるスイッチが入ります。成人だと、光を浴びた約14時間後にメラトニンが出てくると言われます。あまり遅い時間に光を浴びると、眠くなる時間も遅くなりがちです。

 

昼の過ごし方

3.日中に体を動かす
体を動かしている方が、寝つきや、睡眠の質がよくなります。寝る直前の時間帯の運動は興奮して寝つきが悪くなる可能性があることから、夜よりは昼間、もしくは夕方に運動する方が望ましいでしょう。
 
4.昼寝・夕寝はしない
夜更かしする中高生の中には、よく、学校から帰宅後の夕方の時間帯に眠る人がいます。ところが、夕方の時間帯に長く寝ると、夜と寝つきや睡眠の質が悪くなってしまいます。
夕方に寝るくらいなら、その分夜に早く寝る方が、睡眠は質の良いものとなり、結果として時間を効率的に使えます。
 

夕方~夜の過ごし方

5.カフェインをとらない
カフェインは、寝つきを悪くしたり睡眠の質を悪くする場合があります。カフェインというとコーヒーのイメージが強いですが、緑茶、ウーロン茶などのお茶や、コーラなどの清涼飲料水の中にも少なくない量が含まれます。また、子どもの方が大人よりもカフェインの影響を受けやすいという話もあります。
日中も水分補給はカフェイン入り以外の飲みものを中心に行い、寝る前4,5時間はカフェインを避けることが無難でしょう。
 
6.寝る前1時間は薄暗い環境で過ごす。
朝に強い光を浴びるのとセットで、寝る前に強い光を避けることが重要です。夜に強い光を浴びることで、せっかく出てくるはずのメラトニンが分泌されにくくなってしまう、つまり自然な眠気が来にくくなってしまうからです。
具体的には、以下のような方法が考えられます。
  • 天井の照明を昼間より暗くする、もしくは間接照明のみもちいる
  • テレビを消す(必要があってつけておく場合、せめて音量をおとすことがおすすめです)
  • スマホやパソコン、タブレット、ゲーム機などの電子機器の画面をじーっと見ない。

だいたいこんなところです。

どんな眠りが良い眠り? 子どもの「良い睡眠」3つの条件を考える

小学生~高校生くらいの子どもにとっての良い睡眠とは、どのようなものでしょう?
 
以下のような条件を満たしているものではないかと、わたしは考えます。
 
1.十分な睡眠時間がとれている
2.眠る時間帯にあまりばらつきがない。
3.睡眠の質が悪くない
 
順番に解説しますね。

1.十分な睡眠時間がとれている

睡眠時間が足りないと、授業中に眠くなりやすいし、成績も悪くなる傾向があるし、太りやすいし、落ち込んだりイライラしたりしやすいし、と散々です。
以前の記事にも書いたように、6歳から13歳に適正な睡眠時間は9~11時間
、14歳~17歳だと8~10時間と言われます。

2.眠る時間帯にあまりばらつきがない。(就床、起床ともにふだんから2時間以上ずれることがめったにない)

昼間は元気に活動し、夜は眠くなって休息できるよう、わたしたちの体内時計は働いてくれています。体内時計が「眠る時間だな」と認識する時間に寝ることが、すんなりと寝つき、かつ質の良い睡眠をとるために大切なことです。
ところが、日によって眠る時間帯がバラバラだと、体内時計の働きにもばらつきが出ます。同じ時間帯なのに、日によって、眠くなったり眠くなくなったりするのです。
週末に遅くまで寝過ごした次の月曜日の寝起きの悪さ、あれは、体内時計がちょっとずれて、ふだんの平日の起床時間を「まだ起きる時間じゃないよ」と認識してしまっているせいなんですね。
毎日安定して質の良い睡眠をとるためには、なるべく同じスケジュールで寝て起きるようにしましょう。
 

3.睡眠の質が悪くない

たとえば、睡眠時無呼吸症候群があると、睡眠中の無呼吸によって眠りが分断されるので、睡眠の質が悪くなります。寝ている間のいびきが大きく、呼吸が苦しそうな子は、専門的な医療機関で検査をすることがおすすめです。
 
ほかに睡眠の質を悪化させる原因としてとてもよくあるものは、電子機器です。スマホやパソコン、ゲーム機、テレビなどを寝る直前の時間帯にじーっと眺めていると、光によって、メラトニンの分泌が障害され、眠気が来にくくなります。寝る前にスマホを使う頻度が高いほど、夜中に目が覚めたり、自覚的な睡眠の質が悪くなったりする傾向があるという研究報告もあります (Munezawa et al.,  SLEEP 2011;34(8):1013-1020)。
 
 
では、子どもが良い睡眠をとるためには、まわりの大人はどんなことに気を付ければいいのでしょうか? そのことを次回は書きたいと思います。

中高校生の就寝時間を親が早めに設定してあげることが、うつの予防になるらしい

子どもを持つ親ならば、きっとほとんどの方が、自分の子どもがニコニコと元気に生活することを願っていると思います。
 
しかし、思春期は、子どもの内面に嵐の吹き荒れる時期。子ども気分が落ち込んでうつ状態となったり、自殺を考えたりするのも決して稀なことではありません。
子どもの笑顔を守るために、大人が出来ることとはいったい何でしょうか?
 

親が子どもの寝る時間を決めることが、中高生のうつや自殺念慮を予防する

今日ご紹介する論文は、2010年に、睡眠医学では権威ある雑誌であるSLEEPに発表されたものです。
 
その研究では、アメリカの中高生(7-12年生)15000人とその保護者に対して、アンケート調査が行われました。
 
保護者に対しては、子どもが寝る時間を決めているか、決めているとしたら何時台か、ということを尋ねました。
 
中高生本人に対しては、CES-Dという抑うつ状態を調べる20問の質問を行い、一定の点数以上を「うつあり」と判定しました。また、「最近12カ月の間に、真剣に自殺を考えたことがありましたか?」という質問に対し「はい」と答えた子を「自殺念慮あり」と判断しました。
 
自殺念慮とは、「自殺したい」という考えが頭の中にある状態のことです。必ずしも自殺願望というほど強くはありませんが、十分に危険信号であることは言うまでもありません)
 
また、ふだんの睡眠時間、十分な睡眠をとれているか、親が気にかけてくれていると感じているかどうか、などの質問も本人に対して行われました。
 
 
結果は、
親が決めた就寝時間が0時以降もしくは就寝時間が決められていない子では、
就寝時間が10時以前の子と比較して、
うつ症状のある割合が24%高く、自殺念慮のある割合が20%高い
というものでした。
 
これは、年齢や性別、家の経済状況や、「親が気にかけてくれているか」などの変数もi調整したあとの数値です。
 
また、抑うつ状態の子や自殺念慮のある子は、就寝時間が遅く、睡眠時間が短い傾向があることもわかりました。
 

短時間睡眠→うつの因果関係に関して、ツッコんだところが気になる人への説明

この研究のおもしろいところは、「親が子どもの就寝時刻を何時に決めているか」という視点を、睡眠時間と抑うつと因果関係を解明するためにもちいているところです。
 
子どもの睡眠時間やと抑うつ症状や自殺念慮が関連しているという研究成果は、この研究の前にもありました。でも、うつの前兆として睡眠不足が出る場合もあるので、それまでの研究結果だけでは、短時間睡眠である結果としてうつが生じるということが、言いきれなかったのです。
 
でも、親の決める就寝時間は、子どもが抑うつ状態であるかどうかということの影響を受けにくいと考えられます。そして意外にも、親が決めた就寝時間を、子どもはおおむねきちんと守っているらしいのです! 子ども本人の報告による就寝時間は、親が決めた就寝時間より、平均してわずか5分後ということでした。
 
したがって、親が子の早めの就寝時間を決めることは、子の睡眠時間を伸ばし、十分な睡眠時間をとれるようにする働きがあるのではないか、引いてはそのことによって、うつや自殺念慮のリスクが減るのではないか、と考えられるわけです。
 
中高生の年齢ならば、寝る時間の自己管理をさせた方が良いのではないか、と自立に向けた配慮をするのも立派な親心です。
ただ、この年代の子どもは、本人にまかせておくと、だいたいにおいて、遅めに寝て睡眠不足となってしまう傾向があるようなのです。
多少口うるさいと思われても、就寝時間を早めに設定して、なるべく守るように働きかけることが、結局は子どもが笑って楽しく過ごせる日々のために役に立つようですよ。
 
参考文献:
Gangwisch JE; Babiss LA; Malaspina D; Turner JB; Zammit GK; Posner K. Earlier parental set bedtimes as a protective factor against depression and suicidal ideation. SLEEP 2010;33(1):97-106.